刑事裁判をやり直す再審制度の見直しに向けた刑事訴訟法改正案が17日に成立する見通しとなった。三つの懸念が残ったままで、冤罪(えんざい)被害者をより早く確実に救える制度になったとは言い難い。
最大の懸念は、無罪につながる証拠が埋もれたままになるのではないか、という点だ。
再審を受けるためには「無罪を言い渡すべき明らかな新証拠」が必要だ。過去に再審無罪が確定した殺人などの重大事件では、再審請求後に検察が開示した証拠が決め手となってきた。有罪が確定した裁判で明かされなかった、いわば「隠されていた証拠」だ。
一方で、現行法には再審手続きに関する証拠開示ルールがない。裁判官が勧告しても検察に応じる義務はなく、重要な証拠が出てくるまで長い年月がかかってきた。
改正法案では、裁判所が一定の要件のもと、検察に証拠の提出を命じる制度を新設。再審請求理由と関連性のある証拠のうち、裁判所が再審開始の可否を判断するうえで必要性のあるものについて、関係者の名誉やプライバシーを害しない範囲で明らかにさせる。
法務省は、これにより「必要かつ十分な証拠が裁判所に提出される」と強調する。だが、要件は厳しく、提出させる証拠の範囲も「裁判所にとって必要か」で決まる。
元裁判官の村山浩昭弁護士は国会で、弁護側にとって必要な証拠の範囲は「はるかに広い」と指摘した。これまでは弁護側にとって必要な証拠を、裁判所が検察に勧告して提出させてきたとも説明。新たな提出命令制度によって出てくる証拠の範囲は「明らかに狭まる」と明言した。
後退を懸念する声を受け、衆院では法案の付則が修正され、裁判所の勧告や検察の任意開示など従来の運用についても「事案に応じ、適切に行う」と記された。法務省は「付則の趣旨を踏まえ、これまで以上に適切な対応に努める」としているが、勧告に法的拘束力はなく、命令の範囲を超えて幅広い証拠開示が実現するかは不透明だ。
改正法案には、裁判官が提出命令の可否を判断するために、証拠そのものや証拠の要旨を記した「標目一覧表」の提示を検察に命じられるとの規定も盛り込まれた。提示は裁判所だけが見られるインカメラ方式で、弁護側が閲覧や謄写をすることはできない。
この規定について法務省は、検察が持つ全ての証拠や全証拠に関する標目一覧表の提示を命じることも可能だと答弁した。しかし、積極的な姿勢で臨む裁判官がどれほどいるかは不明だ。それら全てを弁護側が見られるわけでもない。
与野党からは「証拠一覧表」を弁護側に直接開示する制度を求める声が相次いだ。立憲民主と公明の両党は修正案も出したが、修正は実現しなかった。
参院で参考人として意見を述べた田岡直博弁護士は、政府法案では「証拠隠しを防ぐことはできない」と言い切った。
自民党の事前審査で注目されたのが、再審開始決定に対する検察の不服申し立て(抗告)だ。